劇画狼(以下・劇):ということでエクストリームマンガ学園での『小銀杏譚』掲載を記念しての緊急座談会です。西野マルタ先生、お久しぶりです。よろしくお願いします。
西野マルタ(以下、西):よろしくお願いします。
劇:早速ですが、『五大湖フルバースト』終了後、ホラーの仕事が来た時に、なぜまた相撲を描こうと思ったんですか?もしくは、編集部から「相撲ホラーで」という依頼があったんですか?
西:編集プロダクションに勤めている友人を通して、「ホラーを描かないか」という提案があり、そこでかねてから漫画のキャラクターとしてよくできていると思っていた河童ネタのプロットを提出したところ、OKが出たので描きました。今回の『小銀杏譚』は、その流れでの3作目になります。
劇:確かに、ホラー第1作の『えんこうさん』は、純粋な河童ネタに、味付けとしての相撲という作りですもんね。なるほど、初めに相撲ありきではなく河童始まりだったと。
西:それで、漫画で怖がらせる技術は無いのでアクションに頼るわけですが、河童なので結果的に相撲になったまでです。不可抗力です。
劇:不可抗力(笑) ちなみに今回の『小銀杏譚』、力士が髷が結えなくなったら引退っていう話と河童の軟膏の組み合わせ、元ネタの逸話などはあるんですか?
西:東西の河童が争っているという設定自体はかなり古くから(江戸時代?)からありましたので、大元のネタとしては既存のものです。その上に、力士が代役になる理由がほしかったので、わかりやすいコンプレックスを抱いていただきました。ちなみに髷が結えなければ引退というのはウソです。
劇:ほうほう。しかしこれも相変わらず超絶的な筆致、こういう画風になった影響っていうのは?
西:銅版画やエッチングが好きなので。
劇:銅版画! そういわれると納得ですね。
西:あとは他に売りが無いためです。
劇:いやそんなことないでしょ。構成的な面でも恐ろしいですよ。しかし、相撲ホラーについてはまだまだ引き出しありそうですね。今後も描く場所があれば相撲ホラーをどんどん量産して欲しいなあ。
西:ぜひやりたいです。ただ、どちらかというと河童のほうに執着がありますね。
劇:アトモスでのホラー4作品のうち、3作が河童×相撲ですもんね。(もう一作は平家の怨霊×アイドル)その中で、お気に入りの一作は?
西:話として上手く描けたと思うのは今回の小銀杏譚です。好きなのは腕白相撲地獄変(新耳袋アトモス2015年夏号収録)です。
劇:なるほど。でも掲載誌なくなっちゃったのは残念ですね。
西:そうなんですね。新耳袋アトモスが休刊になったことを今知りました。
劇:掲載雑誌が休刊になったの知らないとか、大物すぎるでしょ!(笑) その他、今後の活動予定・掲載情報とか宣伝があればお願いします
西:すみません、特に無いのです。
劇:そうですか…やはりファンとしては『五大湖フルバースト』の続編(最終章・心の章)についてのアクションを期待したいところではありますが。それについては当時の担当編集者であるOさんにも入っていただいてお話をお聞きしたいと思います。Oさん、よろしくお願いします。
O:講談社・少年シリウス編集部、別冊ネメシス担当のOです。よろしくお願いいたします。
劇:早速ですが、まず現時点で構想やネームはどこまで進んでいるんでしょう? ファンからしたら、そもそも企画自体が続く可能性があるのかどうかというところから知りたいところではありますが。
西:話の流れ的にはかなり固まっているはずなのですが、どうしても会話と説明が多く、ネームにすると退屈になってしまい「こりゃダメだ」の繰り返しです。
O: 編集部としても、企画を通していないとか、編集長NGが出て頓挫しているとか、そういうことは現状ありません。実現に向けてネームのお願いをしてはいますが、西野先生もおっしゃったように完結までのネームが上がりきっていないので、本格的なGOサインを出せるかどうか以前の段階で止まってしまっていました。
劇:なるほど。完全頓挫ではないんですね。ちなみに僕も全15話(予定)のうちの7話までネーム読ませてもらいましたけど、これ相当ヤバイ設定ですね。どんな話一言で説明すると…
西:宇宙人が相撲留学しにくる話です。
劇:理解が一切追いつかない。まあでも実際、ジャ○ーズ事務所を電撃引退して角界入りした美少年横綱が、相撲を通してエイリアンに「心を伝える」的な話でしたっけ。読みたさしかないです。
O:そんな話でしたっけ!?(笑)。
劇:すいません、うろ覚えのまま確認せずに言いました。宇宙人と美少年が出ること以外イマイチ把握し切れてないですね(笑)
O:……それはさておき、こちらとしても西野さんの作品はなんとか形にしたいと思っていますので、今回の劇画狼さんの企画に尻を叩かれたわけではないですが、これをきっかけに何とかネームの完成を目指していきたい思います。
劇:ってことはまだハッキリした時期的なアナウンスは難しいですかね。
O:そうですね。第三部に関しては、ネームがほぼ最後までできている状況から編集部内でのプレゼンになるかと思います。仮に通ったとしても、何しろあの原稿の密度ですので、そこからまた長い時間がかかるかもしれませんが、どうするにせよ先立つものはネームかな、と。ネームで悩み込んでしまっている現状で、見切りで連載を始めるのはリスキー過ぎますし、西野先生も不安なのではないでしょうか。
劇:確かにそうですね。その間、待ってるだけじゃなく何か読者として出来ることがあればと思うんですがどうでしょう。
O:この企画で「西野マルタすごい!」 「心の章読みたい!」という声を、みなさんに上げていただくことは大変ありがたいです。他社さんの媒体であれ、とにかくバズってますよ! みたいな状況になって来れば編集長だって西野マルタ漫画の掲載に前向きになってくれるでしょうし。たとえば、うちの編集部で最近ヒットした『はたらく細胞』や『転生したらスライムだった』は画像や口コミがツイッターで拡散されヒットにつながりました。隠れたニーズの掘り起こしには市井の皆様の熱い支持がものを言う、という好例です。
劇:なるほど。では具体的に、『五大湖フルバースト』と西野先生のために動くなら、何が効果的なんでしょうか。
O:『五大湖フルバースト』の単行本は残念ながら、上下巻とも一度も重版がかかっていません。初版部数も少なめでした。これが意味するのは、一部の熱い人には受けたが、それがその周囲の冷めた人には飛び火しなかった、ということかと思います。
劇:今回、読み切り1話だけとはいえ無料で公開されて、その起爆剤になれば最高なんですけど。
O:現状、『五大湖』の在庫がどれぐらい残っているかわかりませんが、少なくとも在庫が切れ、しかし書店からの注文は未だに入っている、みたいな状況になってくれば、おのずと新企画は通しやすくなるかと思います。確約できる話ではありませんが、書店店頭やアマゾンから『五大湖』が完売して消え、中古品にプレミアがつくぐらいの状況ができあがっていくような流れがつくれれば、新作の開始や単行本化のタイミングで『五大湖』の重版だって充分あり得るかと思います。
劇:今ふと思いついたんですけど、このコーナーでネームのまま序盤の数話をお試し掲載して、「皆さんの応援があれば、これにペンが入って本格スタートします!」というところまで煽ってしまうのはどうでしょう? 僕の企画を使ってダイレクトな反応を試してもらうというか。
O:いいタイミングでできるなら、それは全然こちらは問題ないと思います。例えばですが、現状でもネームが何度も改稿されているので、改稿前のボツネームなんかをお見せできたりしたら面白いかもしれません。西野先生さえOKならばですが……。『五大湖』も完成形になる前の初期ネームがあって、あれはあれで面白かったのですが、ニーズがあれば公開を考えてもいいのかもしれないですね。そういうものをお見せすることで話題が広がるならばありがたいですし、他社だからどうとかは特にありません。それでリイド社さんにも何らかのメリットを出せるのであればですが……。
劇:リイド社さんからは「面白いものを集めてきて、面白い順に並べろ」以外の指令を受けていないので、そのへんはイマイチよく分かってないんですよね(笑) でも個人的にはやってみたいと思ってますので、あとでリイドカフェ担当さんに聞いてみます。西野先生、最後になりましたが、読者の皆さんへ何か一言あればお願いします。
西:このところ「バチバチ」「火ノ丸相撲」など、とても良い相撲漫画が少年誌に増えています。もはや自分がバカ相撲漫画を描く意味があるのかわからないのですが、なんとか「心の章」は完成させたいとは思っております。
劇:期待してます。西野先生、Oさん、ありがとうございました。
『五大湖フルバースト』詳細はこちら(試し読みあり)
http://kc.kodansha.co.jp/product?isbn=9784063763232
小銀杏譚 《初出》
コミック特盛 新耳袋アトモス 2015年2月号掲載
コミック特盛 新耳袋アトモス 2015年2月号掲載
更新日