劇画狼(以下 劇画) ということで山口先生エクストリームインタビューです。よろしくお願いします。

山口貴由(以下 山口) よろしくお願いします。

劇画 いや~、突然メールして仕事場にお邪魔して「劇画村塾時代の原稿、全部おおかみ書房に預けてください」とか無理頼んですみませんでした。でもマジでお任せいただけるとは。

山口 劇画狼は格闘技やってたから体幹が太いでしょ。だから多分大丈夫かなと思って。

劇画 信頼度を測る基準が独特でよかった! あざっす!
さて、今までほぼ誰も読んだことがなかったデビュー作『NO TOUCH』が今回公開されたわけですが(※公開までの経緯 http://namekujinagaya.blog31.fc2.com/blog-entry-3140.html)、山口先生ご自身も久々に読み返されてみて、率直にどうでしょう? まずそもそも、デビュー作をプロレスにした経緯とか。

山口 当時はプロレスが本当の決闘だと思ってて。プロレスは真剣を用いた殺陣だから命がけという点では変わりないわけなんだけど、「決闘であってくれ」という思いが強かったんだろうね。あの頃はスーパータイガーがアイドルだった。ビデオテープもすり切れたし、シューティング入門もボロボロになったくらい読んだよ。

劇画 なるほど。

山口 で、友人の大学に佐山聡さんが来るって言うんで、会いに行って小さい教室で講演を聞いたわけ。そこで「途中アドリブはあるけど流れは決まっているし勝敗は決めてあるんだよ」って聞いちゃって。俺が泣いてたら「いやー君みたいな子がいると僕も悪いこと言ってる気がするな。シューティング見に来てくれよ。これが君が求めているものなんだよ」って。

劇画 初っ端から最高のエピソードですね。

山口 でもやっぱ『サイバー桃太郎』より前の作品は、「マンガになる前のマンガ」って感じで自分以外の人に読んでいただくのはしのびないね。何一つできていないし、こんなんでよく雑誌に載ったなと。逆にそこがすげーと思って感心する。

劇画 『サイバー桃太郎』でも相当、「素材を素材のまま叩き付けた」って感じですもんね。「のら犬魂~!」とか、好きなこと叫んで投げっぱなしの終わり方とか。ファンとしてはそれが好きなんですけど。

山口 ああ、『サイバー桃太郎』のアレはTHE BLUE HEARTS。

劇画 ブルハ。

山口 なんかさあ、当時ブルーハーツ聴いてたら「あ、言いたいこと叫んじゃえばいいんだ!」って気付いたんだよね。だからそのまま描いた。

劇画 好きなものの取り込み方がヤバい。

山口 ブルーハーツだけじゃなく、パンクロックに出会ってからだんだん作品に血が通ってきた気がするな。マンガを描く時、他の人がどう思うか考えるより、自分自身を応援することに集中してるみたいな。

劇画 そう思って初期の頃のキャラ見ると、コスチューム的にも確かにパンクですね。

山口 でも過去作、全部好き。描いてる時は迷って悩んでばかりだったのに最終回描き終えると何も言うことねえ文句なしって思える。「誰にも負けない」ってほどじゃないけど、「自分自身のファンであり続けていること」は強みだと思ってる。

劇画 ありがとうございます。先日このマンガがすごい!WEBで受けられたインタビュー(前編 http://konomanga.jp/interview/137498-2 後編 http://konomanga.jp/interview/137511-2 )が『衛府の七忍』インタビューとして真っ当に最高だったので、今日はこのまま「作品」より「作家」を好きになってもらえるようなエピソードを聞いていきたいですね。創作スタイルとか、デビュー作から「何を経て今に至るのか」の思い出話とか。
まず、一番最初にマンガ描いたのっていつ頃なんですか?

山口 幼稚園の頃にはコマ割りして女のデビルマンみたいなマンガを描いてる。小学校の時には怪獣とロボットが戦ったり宇宙戦艦で旅だったりするマンガを公開して、クラスの友達に見せてた。

劇画 反響どうでした?

山口 何かものすごく誉めてもらえた。子供の頃、同じ群れのヤツが描いた絵は不思議と下手とは思わないもんなんだ。もう少し大きくなってからだけど、劇画村塾の頃にはガロにも持ち込んだことがあるよ。

劇画 おお、マジですか!

山口 そのときは、長井勝一さんという伝説的な編集長が見てくれた。俺のマンガは文学的ではないらしくて載せてもらえなかったね。かといって商業誌は何処も「ウチではないですね」って門前払い。今回の『NO TOUCH』を見るとわかると思うけど、エンタメの爽快さも文学の憂いも何もないんだよね。

劇画 確かに、身も蓋もない言い方になってしまってたら申し訳ないですが、読者の皆さんも「初期作品のあの無茶苦茶なテンションが、さらにもっと粗削りで出てくるんだろうな」と思ってたでしょうね。今回公開した『NO TOUCH』以外の作品も、エンタメ要素というか「葛藤を葛藤のまま描いてる」感じですもんね。
話は戻りますけど、子供時代にマンガを描き始めた時から、作風的には誰の影響を受けていますか?

山口 どう見ても永井豪チルドレンな作風でしょ? あと、今の作風になるのに一番影響を受けたっていうと、宮谷一彦先生の短編にこーゆうのがあったんだ。ギター弾きが芸能プロダクションのいざこざに巻き込まれて指を全部折られてしまう。その状態ではいつくばりながらステージに向かっていく。そいつが言うんだ。「ギターを指で弾くもんだとでも思ってんのか……」
ここで物語は終わりで続きはない。劇画村塾時代に読んだこのマンガにはすげー勇気づけられたな。

劇画 『覚悟』第一話冒頭の「負けることは恥ではない! 戦わぬことが恥なのだ! 真剣勝負を制する者は技術でも体格でもない」に通じる部分も感じますね。山口先生といえば「忍耐」について独特の表現が多いと思うんですが、実際にやった、常識では考えられない鍛錬や我慢などがあれば教えてください。

山口 少年時代の話ね。自営業の親父が東京の下町で軍鶏を50羽くらい飼ってたの。庭もない小さな家で。この鳥たち、昼は家の前の土手に小屋を組み上げてそこに住まわしてるんだけど、俺はエサを与えたり少羽ずつ小屋から出して運動させたりするわけ。逃げたり猫に狩られないように見張ってなきゃいけない。

劇画 ほうほう。

山口 夕方になると一羽ずつダンボールに入れて家の中で寝かせるわけ。寒いと死ぬし、屋外だと寒くて鳥が眠らないから。家の廊下が鳥たちの箱でいっぱいで壁に張り付かないと通れない。うっかり光が入ると鳥が朝だと思って騒ぎ始める。一羽鳴くと連鎖で全部の軍鶏が合唱するんでそれを俺がなだめて大人しくさせる。朝が来たらまた鳥たちを外の小屋に入れる。

劇画 養鶏場が家業だとキツイっすねー。

山口 いや、これ親父の道楽なんだよ。

劇画 最悪!

山口 養鶏が家業なら全然ありだと思うんだけどね。生活費を生み、誰かの栄養になるなら何も文句ないわ。親父のは近所に迷惑をかけただ浪費するだけだからな。すげーと思う。

劇画 耐えきった山口先生もすごいですよ。

山口 あ、思い出した。何人か自殺があって幽霊が出るってことで住む人がいなくなったアパートを安く売ってもらえたから、そこをスタッフの寮にしてて、自分もそこに寝袋持ち込んで泊まり込むんだりするんだけどなんも出ねー。

劇画 ちょっと待って。なんで取れ高ゼロの話したんですか。つうか山口先生の忍耐じゃないし(笑)

山口 あと、これも「忍耐」とは違うかもだけど、何か私生活でいいことがあるとマンガ運が下がるんじゃないかと思ったり、逆に損したりデート断られたりするとマンガ運がチャージされたって感じがするわ。

劇画 ジンクス的なものですかね。ちょっと話が逸れましたけど、やはり山口先生といえば『覚悟のススメ』からって人も多いと思うので、なにか当時の思い出話があればお願いします。

山口 『覚悟』の連載開始3か月くらい前かな。平成5年、秋田書店の忘年会に担当の編集者が連れてってくれたんだ。大きい出版社の開催するパーティなんて初めてだったから圧倒された。大きなホテルで、酒も肉もいくらでも食べ放題だったけど、一つも手を付けなかった。水島新司先生、真樹日佐夫先生、永井豪先生、数えきれないくらいの伝説の怪獣が一堂に会してるのを見てるだけで胸がいっぱいだった。
で、中央のステージにピンクサターンっていうTフロントの水着コスの女の子たちが踊っててね、その尻をウンコ座りで眺めてる野郎が3人いるわけ。その風貌がとても漫画家とは思えない3人、それが『男旗』の石山東吉さん、『グラップラー刃牙』のモデルにもなった格闘家の平直之さん、そして板垣惠介さん。
俺が隣に座ったら、(劇画村塾の)同門の板垣さんが「おう山口じゃねーか」と声を掛けてきた。「来年チャンピオンで連載させてもらう」と俺が言うと「ここな、どんどん連載が始まるけど、どんどん打ち切りになるぞ。出し惜しみとかすんな。最初から切り札出してけよ。あっという間に終わっちまうから」って言ってくれたのを覚えてる。
来年もここに来れたらいーなーって思ったわ。

劇画 めちゃくちゃかっこいい話じゃないですか。そして実際に『覚悟』はヒットし、山口先生は人気作家になっていくわけですが、この次というと『悟空道』ですね。

山口 『悟空道』のころは、自分は30歳になったばかり。6人の作画スタッフは全員20代前半の漫画家志望で。そのころの仕事場は狭くて、一人は椅子もない。週刊だったのでほぼそいつらとの合宿生活だった。

劇画 全員で寝泊まりって感じだったんですね。

山口 そいつらが寝る間も惜しんで持ち込み用の作品を見せ合って討論してて。仕事中も夜が明けるまで映画や人生の話をしていた。髪を腰までのばした者、頭髪を剃り作務衣を着た者、どの集団にもカテゴライズされない見た目の6人が、横に並んで歩くのが怖すぎると地元の商店街から苦情が入ったこともある。とにかく、生きる芸術品のようなやつらと暮らす黄金の日々だった。そんな日々をいつまでも続けたくて漫画家をやっているのかもしれないね。

劇画 「事故物件に住まされてる可哀相な人たち」と思ってましたが、すみません。
アシスタントさんの話が出たので、仕事のやり方や分担などを教えてもらっていいですか。

山口 まず、作画は完全アナログ。

劇画 今となっては貴重な存在ですね。

山口 最近、三浦健太郎さんがデジタル導入したことを知ってビビってるよ。

劇画 山口先生はデジタル導入しないんですか?

山口 ない。平田弘史先生に「パソコン使いたくないし時代おくれで滅びてもいい」って言ったらすげー怒られたこともあるわ。編集者には「下手に銃持つより手斧で闘ったほうが強い」と言われるけど、滅びゆく民なのは間違いないな。

劇画 仕事時間とかもキッチリ決めてるんですか?

山口 だいたい明け方に寝て昼過ぎに起きてる。作画スタッフが入って作業がスタートすると、全員朝5時に寝て午前11時に仕事場に入る感じかな。

劇画 なるほど。『衛府の七忍』の巻末にクレジットされてるのを見ると、アシスタントさんは現在4名でしょうか。

山口 せっかくの機会だから、ひとりづつ紹介するわ。まず、那須信弘氏。彼は現役の漫画家で、『覚悟のススメ』よりの相方。

劇画 長年のファンには名前も馴染み深いですよね。

山口 背景は彼に全部任せてる。自分は大まかなレイアウトを指定するのみ。山口組の名物である「金属の質感」は、新キャラができた時に自分が一回描いて、その後は彼が質感を入れる。

劇画 確かに、いろんな外骨格/鎧が出てきますけど、全部輝き方が別ですもんね。

山口 次に内田勇氏。『シグルイ』後期より参加してもらっている元少年チャンピオン作家。那須氏の入れた鉛筆による金属の質感を、彼がもう一度上から描く感じでペン入れする。群衆などのモブは自分が下描きをして、内田氏がペン入れをする。服の模様なんかも任せてる。

劇画 武蔵の鎧の描き込みのエグさにビビッてたんですけど、これは那須さんと内田さんのいい仕事だったんですね。震鬼の変身後の見開きとかもヤバい。

山口 次が久田俊介氏。『悟空道』からのメンバー。元成年誌の漫画家で、直線を使った質感や集中線・スピード線などを全部やってもらってる。ペン入れが終わった人物に自分が青鉛筆でハイライトを描き、それに合わせてアナログでスクリーントーンを削ってくれている 髪の毛の質感も全部彼。

劇画 へ~。個人的に聞きたかっただけなんですけど、我ながらいい話を引き出せてるわ。

山口 あと、今年から平岡という20代の若者が参加してる。全部デジタルで作画する世代の若者で、手斧での闘いを興味深く見てるわ。彼もプロデビューしてるけど、まだ漫画の暗黒面に染まってないので、仕事場の空気を清めるのに役立っている。

劇画 最後の最後で「空気清浄」という概念の分担が出たところで、一旦ここで一区切りにしましょう。この続きは4/28の『NO TOUCH2』の公開時に。
読者の皆さんに、前半の締めの一言お願いします。

山口 あざます。普通、30年もマンガ家やってるヤツの初期作品てのは、ふるえながらもありたけの想いが詰め込まれていて、マンガ読みにとっては現行の作品以上に面白いものだったりするわけだけれど、山口貴由のはそーゆー感じじゃないですね。だからこそ単行本にもならず今日にいたるまで眠っていたわけで。マンガになる前のマンガみたいな感じで、物語も詩も何もない。どんなマンガを描いてゆきたいのか、何が大切で何が許せないのかもわからない。作者自身の”何もないけど何かになりたい”って想いも伝わってるかどうか。読んでくれた人、やり場のないモヤモヤ感を抱えていることでしょう。
この頃、読者からの反応なんてひとつもなかったけど、この業界の人たちから”兄ちゃん辞めんじゃねーぞ”的な言葉をたくさんいただいたのを思い出します。とても才能あるとは思えないけどそんな言葉に励まされて今もマンガを描かせて頂いてるので、もしも僕が”何にもない作品”を抱えてるヤツに出会ったら辞めんじゃねーぞって言ってやりたい。そんな感じです。

劇画 ありがとうございます。続きは4/28で!



《初出》 COMIC劇画村塾 1986年5月号

《山口先生情報》
もうとにかく『衛府の七忍』を読んで!
http://www.akitashoten.co.jp/comics/4253238513


※劇画狼から読者のみなさんへ
今回、ご縁があって『山口貴由「超」初期作品復刻計画』と銘打ったアクションをかけ始めることができました。が、現時点で決まっているのは次回4/28に『NO TOUCH2』が公開されることだけで、このあとすべての山口先生初期作品が公開されるかどうか&紙の単行本になる可能性などはまったく未定です。リイドカフェは無料サイトなので、現時点でリイドカフェ/山口先生に直接お金を落とす方法はありません。が、このリイドカフェというサイトは山口先生ファンであれば非常に相性がいい作品がたくさん連載しているので、もしよければこのサイトの他作品も読んでいただいて、興味があれば単行本を買ってください。
(このカテゴリとか「合う」はず http://leedcafe.com/ccc/)
その際に「山口先生の復刻で知ったリイドカフェの〇〇が面白かったから単行本買った!」などとSNSで言ってもらえたりすると、もしかしたらリイド社の上の人に「間接的にだけど利益生んでるな。いいぞもっとやれ」と思ってもらえるかもしれません。勝手に言ってるだけですけど。
自分も「出版社側の人間」というよりは「この初期短編集が出てほしいと思っている読者の一人」です。現時点で全力でやっているつもりですが、皆さんが何か一つでも力を貸してくれれば、まだまだその先の力が出るはずだと思っているので、一緒に頑張りましょう。
そんな感じです。

更新日

劇画狼

マイナーマンガ紹介ブログ・なめくじ長屋奇考録の管理人&特殊出版レーベル・おおかみ書房編集長。得意ジャンルはエロ劇画とコンビニコミックス。好きなマンガは将太の寿司。