劇画 ということで引き続きよろしくお願いします。前回は『悟空道』の頃のエピソードと、アシスタントさんの紹介まででしたね。連載作品的にいうと、次は『蛮勇引力』。ここで青年誌に移動されましたが、戦場を変えたのは「描きたいものが変わってきたから」、とかですか?

山口 漫画家になって14年目。人間でいうと中学生ぐらいなんで、このあたりでやさぐれるんじゃないかな、漫画家も。

劇画 ウハッ

山口 その頃、もう少年マンガとか描くのキツイなと思ってた。キラキラしたものは全部『悟空道』に注ぎ込んでしまったから。自分の愛とか冒険心は無限にあるわけじゃなかったなと……

劇画 『蛮勇引力』は、その後の他の作品と比べても完全に異色ですよね。

山口 『蛮勇引力』は最後にひとつ花火を上げてマンガ界をおさらばするか、みたいなデスペラードな色気があって、今読むとすごくいい。

劇画 個人的には、完結作品では一番好きですね。自分がキックボクサー時代に、トランクスに「敬人尊野蛮」の刺繍入れてた話は前にしたと思いますけど、人生の要所ですぐこの作品の何かを背負って戦いたくなる、そういう、他作品と比べて面白いかどうかじゃない「読んだ人間の血肉になる」作品だと思っています。

山口 トランクスに尊野蛮入れてリングに上がる男ってのは、想像もしてなかったな。格闘家は生きた花を表現出来るけど、マンガ家は造った花しか表現出来ないからね。なんか申し訳ねーわ。川尻達也が井上雄彦をリスペクトしてんのも不思議だもん。

劇画 失礼な言い方になってたら申し訳ないですけど、『蛮勇引力』は人気出ようと思って描かれてないですよね? 一切の共感から外れたところにある孤高の野生というか。

山口 読み手の共感を得にくい設定やキャラクター、長生きや財産の獲得につながらないメッセージ。担当の編集者は苦戦するってわかってたんじゃないかな。

劇画 やっぱり(笑)

山口 何か男ってのは”滅びゆく狼や鷹のロマン”って聞くと冷静な判断力を失うのかな。『蛮勇引力』は大部分の読み手にとって縁起が悪くて真似したくない滅びの物語なんだと思う。

劇画 でも滅びたいだけって感じじゃないですよね。

山口 特攻作戦の戦艦大和に乗る兵士たちの言葉で、”死ぬのはわかる。死ぬことに文句はない。ただ死ぬ意味が欲しい。勝ち目がゼロの戦闘に出撃する意味が欲しい”ってのがあって。その問いに対する答えが”日本が生まれ変わるために敗れるのだ。もし大和が出撃していればなどといいう言い訳は残さない。切り札をもってして完膚なきまでに敗れることによってのみ、日本は生まれ変わるのだ”なんだよね。

劇画 ある意味、先生が「自分自身を生まれ変わらせるために、自らボコボコにされに行った作品」って感じなんですかね。

山口 今思うとそうかもしれないな。っていうか劇画狼が『蛮勇引力』好きなのは聞いてたけど、こんなに本題から外れた話してていいの?

劇画 いいですいいです。仮に『覚悟』や『衛府』の話をしてたとしても、本題じゃないですし。これリイド社の媒体だから(笑) だから今日まだ一度も本題に入ってないですし、この後も入らないです。『シグルイ』についてはどうですか?

山口 『覚悟のススメ』について「もうひとつだね」とおっしゃっていた師匠(小池一夫)が「『シグルイ』はいいぞ山口。これはお前に似合っている。こういうのは宝くじに当たるみたいなもんだ。俺もたくさん作ったが『子連れ狼』の小池一夫と言われる。『シグルイ』ってのはお前にとってそういう作品。ずっと続けていけばいい」と言ってくださった。でも俺は、「師匠と子連れ狼は同じだと思いますが、自分と『シグルイ』はだいぶ違います。これが自分だと言われるような作品をまた探してみようかと」って返したんだ。

劇画 なるほど。この頃からネットも充分に普及して、「若先生」のイメージが独り歩きしたり「本気かネタか分からない作風」が読者の間で盛り上がって言った気がしますが、そういうのはどう見られていました?

山口 若先生って呼び名はものすごく光栄。『衛府の七忍』を読んだ人はまた別のイメージを持ってると思うし。

劇画 僕も去年の11月に初めてお会いするまでは、「若先生」イメージでめちゃくちゃ緊張してましたからね。駅前で待ち合わせた時に、スマホいじりながら待ってちゃ失礼だと思って直立不動で待ってて。

山口 初対面から君は体幹が安定してたよ。

劇画 あれが信頼につながってよかった(笑) イメージの話ついでに質問ですが、山口先生はSNSやってらっしゃらないので、作品以外の趣味嗜好の部分が見えてこないのがいい方向に作用してると思うんですが、ネット上でのファンとの交流がない分、ファンレターとかは多かったりしますか? 『覚悟』や『悟空道』の単行本ではファンレターやイラスト、届いたグッズ紹介なんかもありましたが。

山口 ファンレターは全部嬉しいね。初めてもらった時のことは今でも覚えてる。とにかく『覚悟のススメ』までは誰も知らない漫画家だったわけで、全て打ち切りだし本も売れなかったわけ。で、『平成武装正義団』っていうマンガが終わった時に編集部に「なんで一番面白いマンガ終わらせるんですか? バカなんですか?」みたいな女子高生の怒(おこ)の投書が来てさ。当時のリイド社の編集さんが「おい、お前のマンガ読んでる子いたぞ」つってその手紙を見せてくれたんだけど、あれはすげーうれしかったわ。

劇画 インタビュー前半で「ずっと自分のファン」とおっしゃってましたが、自作以外のマンガも読まれますか? 好きなマンガとかあれば教えてください。

山口 森恒二さんの『ホーリーランド』は好きだな。あれ読んで部屋でワンツーを打たない奴いないでしょ。今でもジムでサンドバッグ打つ時、「ワンワンツーワンワンツー」って神代ユウになる時あるよ。

劇画 最近読んでるマンガはありますか? 好きな雑誌とか。

山口 たくさんあんだけど、今やってる中からいくつか挙げるなら『ゴールデンカムイ』、『カムヤライド』、『鬼滅の刃』、『少女聖典ベスケ・デス・ケベス』かな。雑誌単位だとスピリッツと少年チャンピオン。

劇画狼 おお! なんか「山口貴由ファンが好きそうなもの」な空気感ありますね。

山口 『ゴールデンカムイ』は骨太の大きなドラマの中に差し込まれる切れ切れのギャグ、『鬼滅の刃』は1コマ1コマに血が通ってるのがいい。命の重みっつうか。

劇画 山口ファンはみんな『ゴールデンカムイ』好きそうだなーと思ってましたが、山口先生もお好きなんですね。すげえ納得。『鬼滅』も、ニュアンスとしてのフワフワした言い方ですけど、今のジャンプ連載作品の中では一番チャンピオンですもんね(笑)

山口 『カムヤライド』、久正人さんのキャラデザインはどの作品を見ても惚れ惚れする。

劇画 『カムヤライド』は特撮的な「魅せるギミック」を完璧にマンガでやってるので最高にかっこいいですよね。というか『カムヤライド』みたいな、始まったばかりで単行本がまだ出てない作品もチェックされてるんですね。最後の『ベスケ・デス・ケベス』は意外過ぎましたが。

山口 ルノアール兄弟のは全部読んでる。『ルノアール兄弟が愛した大童貞』とか名作。

劇画 『大童貞』は名作。異議なしです。

山口 でもすべてのエンターテイメントの中で一番映画がスゴイと思ってて、映画の中でも怪獣映画が最高だと思ってる。

劇画 このマンガがすごい!さんのインタビューでも怪獣愛についての言及がありましたね。特に好きなものというと?

山口 怪獣映画の最高峰が平成ガメラ。奇跡の連続だよ。何度見ても。

劇画 マンガの話に戻りますが、『シグルイ』以降の作品では、いわゆる「スターシステム」が導入されていますが。

山口 『エグゾスカル零』だと、「人間とともに青春を謳歌してたヒーローが誰もいない廃墟にたたずむ」っていうコンセプトがあって、自分が好きだったTVやマンガのヒーローを勝手に使うわけにもいかないんで、過去作から引っ張ってきただけつうか。過去作を一つの世界観にまとめるとか、そういうつもりでは全然ないんだよね。

劇画 『衛府の七忍』についても同じですか?

山口 『衛府』については、「好きな時に好きな場面だけ描く」だな。これが理想的な執筆のスタイルだと思う。端から見るとアソんでるように見えるかも知れないけど、スケジュールが迫る中でベストテンションの訪れを待つのはなかなか勇気がいる。これで面白くないなら言い訳の余地はないと思う。

劇画 スターシステムの話に戻りますが、『衛府』にも多くのキャラが登場しますね。中でも聞きたかったのが、『シグルイ』の藤木と伊良子。藤木は犬養幻之介として登場し、最終的に身分から解き放たれ”個”としての意志で自分の人生を選ぶ結末。同じく伊良子は諏訪頼水として登場し、手に入れたかった”身分”を持って再登場します。このあたり、作者として昔頑張ってくれたキャラに、「前作で手に入れたかったであろうものを“救い”として与えてやりたかった」という気持ちはあるんでしょうか?

山口 ”救い”とか考えてないなー。貝蔵とかまたあーゆー死にっぷりだし。

劇画 確かに『蛮勇引力』の時と死に方が一緒!(笑) 逆に『衛府』のカクゴは、「寡黙な役どころが多かった覚悟に、感情のまま暴れまわるカクゴという役を演じさせたらどうなるか?」みたいな興味という感じでしょうか?

山口 このマンガがすごい!のインタビューでも言ったと思うけど、自分的には大部屋に役者がごろごろいて、目が合った人を登用する感じ。主役とかやった人は演技力高いので、いい役柄もらえがち。ちなみに『衛府』のカクゴは新人だよ。新規造形。名前一緒でまぎらわしーけど。利口な犬くらいの頭の良さ。

劇画 おー、そうなんですね! そんな重要な情報を、秋田書店関係の媒体じゃなくリイド社で余談として聞いてしまってすみません!

山口 「大部屋」設定で言うと、大道具とかぬいぐるみとかの倉庫もあって、怪獣や鎧も回してる。貝蔵とかは達磨状態のプロップ(小道具)があって、お腹踏むと血を噴くギミックが仕込んである。

劇画 ちょっとした衣装や小道具の「使い回し」にも気を付けて読み返すのも楽しそうですね。

山口 でもマジで、仕事中スタッフにはそんな感じで、映画撮ってるみたいに説明する。「俺たちは映画撮ってるんだ」と思うと楽しい。

劇画 なるほど。でも本当に『衛府』は好調ですね。もっと売れたら何か買いたいものとかありますか?

山口 強化外骨格のスーツを原寸で作ってもらって、サイン会の時に横に立たせてキッズと握手させたいね。でもあれだ。マンガがいい評判の時はいろんな人と会いたいと思うし頑張ってる奴らと酒を飲む資格があるだろうと思うわ。

劇画 最後に,今後の目標をお願いします。

山口 未来について考えるのが苦手っつーかストレス。とにかく自分はそういうことを考えると窒息しそうになる。
今、ここ、自己(おのれ)。
それだけでいい。犬みたいに生きていきたい。十代の終わりごろから、ずっとそんな感じ。今、ここ、自己(おのれ)。今月号、全力でマンガ描くだけ。

劇画 ありがとうございました。





《初出》 COMIC劇画村塾 1988年1月号

《山口先生情報》
『衛府の七忍』5巻まで発売中
http://www.akitashoten.co.jp/comics/4253238513

『蛮勇引力』、紙の本は絶版だけど電子書籍は買えるので、この機会にぜひ。
上巻 下巻

(とりあえずAmazon貼りましたが、好きなところで買ってね)



劇画狼からのお願い
ということで前回も言いましたが、現時点で「次はいつ公開します!」というのは決まっていません。協力したいと思ってくれる方、おおかみ書房とリイド社が提携して出している劇画狼監修コミックを、気が向いたら購入お願いします。

完全版サイコ工場 上下巻発売中
http://leedcafe.com/webcomicinfo/psycofactory/
恐怖の口が目女 6/30発売
http://namekujinagaya.blog31.fc2.com/blog-entry-3141.html

7月にはオガツカヅオ先生の短編集も出します。この4冊がキッチリ売れてくれて、おおかみ書房がリイド社に対して存在感を示すことができれば、次のアクションに繋がるかも知れません。
おおかみ書房×リイド社に関してはそんな感じです。よろしくお願いします。
それとは別で、山口貴由×劇画狼の遊びに関しては、来月あたり続報あります。
告知は劇画狼ブログツイッターで。

更新日

: 劇画狼

マイナーマンガ紹介ブログ・なめくじ長屋奇考録の管理人&特殊出版レーベル・おおかみ書房編集長。得意ジャンルはエロ劇画とコンビニコミックス。好きなマンガは将太の寿司。

 

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